私のルーツを作ったカルメンひいひいおばあちゃん

育児雑記

当時5歳くらいだっただろうか。ある夜、左胸の激痛で目を覚ました。

真っ暗闇の中、カルメンひいひいおばあちゃんの怒鳴り声が響く。カルメンおばあちゃんがあんなに大きな声を出すなんて珍しい。

フィリピンのとある島。6人兄弟の次男の私は貧しさから実の母に育ててもらえず(長男は亡くなっていた)、カルメンおばあちゃんにお世話になっていた。おばあちゃんももちろん裕福なわけではなく、葉っぱでできた屋根の家、時折来るスコールがシャワーという生活をしていた。

当然夜は真っ暗なので、何が起きたのかすぐには分からなかったが、どうやら泥棒が入ったらしく、カルメンおばあちゃんは勇敢に追い払っていたらしい。

私は逃げる泥棒に胸を踏まれたようだった。

カルメンおばあちゃんはとても優しい人で、私だけでなく身寄りのない人を何人も家に住ませていた。なので家に知らない人がいるのが普通だったし、お金がないのももちろん普通だった。

なのになぜ泥棒が入ったのか。日本人男性と結婚した叔母さんがこっそり仕送りをしてくれていたのだけれど、どこかでその話が漏れたのが原因らしい。裕福でも貧しくてもフィリピン人はお喋りが大好き。

カルメンおばあちゃんは無事泥棒を追い払ったし、胸の痛みもなんとか治まったけれど、後で聞くと泥棒は薙刀を持っていたらしい。カルメンおばあちゃんも私も無事でよかった。

薙刀を相手に素手で勝ったカルメンおばあちゃん。

彼女はきっと今も守護霊として私を守ってくれている。

カルメンおばあちゃんとの暮らしは今の私からは想像もつかないほどワイルドだったと思う。

葉っぱの屋根やスコールのシャワーだけではなく、カルメンおばあちゃんは鶏を飼っていて、自分で捌いてみんなに振る舞ってくれたし、よくわからないお酒や葉巻も自分で作っていた。

ある日、集落の大人の男性が5人がかりで大蛇を運んできたことがある。いくら子どもの時に見たとはいえ、南国の蛇は本当に大きい。怖かった。

それをどうするのかと思ったら、丸焼きにしてみんなで食べていた。美味しいらしいが、私は怖くて食べれなかった。動物は好きなほうだけれど、いまだに蛇は得意ではない。

海やココヤシの木が私の遊び場だった。今の暮らしと比べると、これだけは本当に贅沢だった。

てっぺんに登ると本当に絶景

カルメンおばあちゃんとの暮らしはどんなに貧しくても楽しかった。小さいくせに噛まれるとめちゃくちゃ痛いアリとかがたくさんいても、楽しかった。

でも、カルメンおばあちゃんと別れなければいけない日が来た。

ある日、仕送りをしてくれていた叔母がやってきて、あまりの暮らしの質の低さ(社会的な意味で)に怒ってしまった。

「あんなにお金を送ってあげているのに、この子にこんな暮らしをさせているなんて、もう見ていられない!」

なにしろカルメンおばあちゃんは見知らぬ人の面倒まで見ていたので、私の養育費として送ってもらったお金ではとても足りなかったのだ。

私は叔母に引き取られることになった。それまで出たことのなかった小さな島を出て、首都マニラへ。マニラまでは、カルメンおばあちゃんも来てくれることになった。

生まれて初めて靴を履き、初めて車に乗った。島では裸足だったし、移動は水牛車だった。

これね

道はもちろんボッコボコなので、何度も吐いた。

こんな思いをしてまで行かなければならないのか疑問だった。

叔母さん改め義母にはすでに娘がおり、私の妹になった。めちゃくちゃ相性が悪く、殴り合いの喧嘩をするくらいだった。

フィリピン本土はタガログ語と英語が公用語。私が住んでいた島の言葉は方言どころか全く言葉が違っていたため、すれ違いも多かった。

今でこそ義母にはとても感謝しているけれど、お互い当時は前途多難すぎた。

その後、当時の義母の結婚相手の日本人と東京へ。

異国の地で言葉もわからず(根性で半年でマスターしたが)、いじめにあったりもした。義母の結婚相手はかなり厳しい人で、叱る度に手をあげていた。そのため離婚し、義母はシングルマザーになった。

そんな中、カルメンひいひいおばあちゃんが亡くなった。

正確な年齢はわからないが、100歳近くだったので大往生には違いない。けれどそんな年齢を全く感じさせない元気さだったので信じられなかった。

私がフィリピンを離れてすぐに体調が悪くなってしまったらしかった。

靴や車に慣れてからも、島やカルメンひいひいおばあちゃんのことを思い出さない日はなかった。

そしていつからか漠然と、大きな夢ができた。

海がとても綺麗で、カルメンおばあちゃんと暮らした島。

島自体がとても貧しいので、いまだに現地の子ども達は充分な教育が受けられず、かつての私のような暮らしをしている。

生まれた島に学校を建てたい。

今は我が子達にたくさん旅をして、立派な大人になってもらうために時間を使っているけれど、みんな自立したらその野望を実行したい。

それがカルメンひいひいおばあちゃんへの恩返しになると信じている。

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